2009年05月16日

生れ出るものの不思議

 五月蝿と書いてウルサイと読むが、午睡でもしている時の一匹のハエはまことにウルサイ。


ことにたいてい寝ている顔に止まりにくる。叩けば目にもとまらぬ速さで逃げる。昆虫の本を読むと、あの見事な飛行がどうして行なわれているのか、驚かされることばかりだが、ハエの場合、飛ぶようになるまでの過程が、またまことに興味深い。


 ハエは土の中で蛹(サナギ)になるのだそうである。当然土の中で蛹からかえってハエになるが、まだ翅(はね)が伸びておらず、小さくてやわらかい。土中から這い出して一時間ほどすると固くて黒いハエになるが、どうして、やわらかい体で土の中から出てくるのであろう。


「羽化したばかりのハエは、頭に袋を持っている。体をぎゅっと縮めて血液をこの袋に押し込むと袋は力強くふくれて土を押し分ける。

袋から血液を引いて肢(アシ)をふんばると、できたばかりの土の隙間へからだが入る。この繰り返しで土の中から外に出る。」のだそうである。(日高敏隆著:昆虫という世界・朝日選書)


 本能とはいえこれは驚くべき作業である。


ウルサイ、不潔、ゴマのハエ、蝿の持つイメ-ジは最低である。しかし生まれ出るまでに、そのような、神秘ともいうべき力が与えられていた。それを思うと午睡のじゃまだといって叩き殺すのは、いかにも哀れである。


 生まれるまでの神秘さはハエも人間その他の生物も同じかもしれない。しかし、生まれてから、ということになれば、悪知恵の発達した人間は、到底純真無垢な他のあらゆる生物に比較し得る資格はない。


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Posted by 鷲津商店街 at 07:56 │コラム

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